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DEVELOPMENT EPISODE パイロットから園芸業界へ DEVELOPMENT EPISODE パイロットから園芸業界へ

キャビノチェ株式会社代表取締役 折原龍が「サスティー」開発の経緯を語ります。
実は、折原は元パイロット。プロダクト開発経験もない折原が、
サスティーを国内売上げ40万本のアイテムに育てられた秘密とは?
インタビュアーは、株式会社マザーハウス代表取締役副社長(株式会社Que社外取締役)山崎大祐さんです。

サスティーとは?

どんな植物にも利用可能な水やりチェッカー。
適切な水やりタイミングを「色の変化」で知らせてくれる。
鉢に挿しておくだけという簡便性も魅力。

EPISODE 01 パイロットから園芸業界へ。
ツテもなく、あったのは気持ちだけ

  • 山崎

    サスティーは、どういった経緯で生まれたんですか?

  • 折原

    「サスティーは7年前にできましたが、さかのぼると、中学の時から漠然とプロダクトデザイナーになりたいなぁと感じていました。ただ具体的にどうやったらなれるのかは分かりませんでした。
    ある時、そのストレスから過呼吸になってしまったことがあり、医者に『気晴らしになるような趣味をみつけなさい』と言われたんです。
    元々、祖父が梨の農家ということもあり、植物に興味があったので庭先でハーブを作り始めました。冬は寒さでやられてしまうので鉢に植え替えたりもしていたのですが、枯らしてしまうこともあり心を痛めていました。愛情があるあまり、水をやりすぎて根腐れしていることもありました。
    うまく解決できる製品が欲しいと当時から思っていましたね」

  • 山崎

    中学生の時から植物が好きだったんですね?

  • 折原

    「そうですね。神戸にある布引ハーブ園で、シナモンの表皮を拾ったのがキッカケです。ものすごくいい香りがして、後にハーブの一種だと分かったんです。それからは、ガーデンセンターで手に入るものを数十種類育てるように。
    ハーブはお茶にすることもできるので、祖父母に『ハーブティーは冷え性にいいよ』とオススメするような子でした(笑)」

  • 山崎

    折原さんは、パイロットとして就職してから園芸業界に転身されたというのもユニークですよね。

  • 折原

    「僕は、小さいときからどうしてもパイロットになりたかった訳ではないんですよ。
    サラリーマンやビジネスマンではないものになりたくて入社しましたが、心から飛ぶことが好きな人と比べると追いつけないなと感じていて。
    操縦士は、決められたことを決められたようにする仕事だなという印象を持ちました。
    初フライトは教官と一緒に乗りましたが、想像と全く違いましたね。
    自動操縦で飛ぶものだと思っていたんですが、フライトプラン、管制塔からの英語の指示と、いくつものタスクを同時に行います。
    大道芸のそれに近いと感じました」

  • 山崎

    パイロットって、多くの人が憧れる『なりたい仕事』の代表だと思います。
    それを辞めて…というのは難しかったのでは。

  • 折原

    「パイロットになるためのマニュアルは膨大で、自分の身長分くらい覚えることがあったんですが、飛ばすことが純粋に好きなら難なく取り組めます。
    改めて、好きこそものの上手なれだなと強く感じたんです。
    そこで『自分自身がいちばんやりたいことは?』と自問し、植物と人との架け橋になるような製品を作れないだろうかという想いにかえりました」

  • 山崎

    なるほど。スパッと決断できたんですか?

  • 折原

    「もちろん、訓練中もずっと悩みましたよ。病みそうになるくらいでした。
    ベッドに横たわって、『次の日、目が覚めなかったらどうなるかな』と考える時もありましたね」

  • 山崎

    訓練期間は終えたんですか?

  • 折原

    「事業用操縦士や計器飛行証明などプロライセンスを取得し、お客様を乗せる直前まで行きました」

  • 山崎

    周りの反応は?

  • 折原

    「会社を辞めることを8割は反対されましたね。
    将来的にこの道を選んで良かったと思う可能性もあるけれど、
    自分の性格がこの仕事に向いていないと感じている気持ちは変わらないだろうと」

  • 山崎

    その時点では単に植物が大好きなだけで、未だ趣味の領域ですよね?

  • 折原

    「おっしゃる通りです。単にハーブが好きだっただけで、
    園芸業界やものづくり業界とのつながりは一切ありませんでした」

EPISODE 02 植物が枯れる原因の8割は、水やり。
この課題をクリアできないか?

  • 折原

    「植物やものづくりであれば、長い時間取り組んでいても飽きないんです。
    なんというか、心の摩擦が少ないんですね。
    植物をいくら大切に育てていても、
    枯らしてしまうととても悲しい気持ちになります。
    なので、この根本的な課題をどうにかクリアできないかな?と。
    調べていくと、植物が枯れる原因の8割は水やりだと分かりました。
    そこで世界中の水分計を取り寄せて使ってみましたが、
    どうも機能面やデザインが気に入らない。
    また、高額だと気軽には使えません。
    そこで、機能性、価格、デザインのバランスが取れれば、
    植物を育てている人に刺さるものができるのではないかと考えました」

  • 山崎

    なるほど。
    ニーズに叶うものを作り始めたんですね。

  • 折原

    「園芸を楽しんでいるのは、60代から70代の人が多いです。
    スマホで管理する方法は一般的ではなかったですし、
    『難しいから使いたくない』という声も多かった。
    そこで、アナログなプロダクトに絞って考えました。
    視覚的に色が変われば、お子さんから大人まで使えるので、
    色の変化でわかるものがシンプルでいいと思いました。
    いちばん苦労したのは、吸い上げる素材探しですね。
    サスティーのLサイズは25cmもあるのですが、
    その高さまで水分がなかなか上がっていかないんですね。
    本当に色々な素材を試しましたよ。
    例えば、アルパカの毛とか、綿とか。
    同じ綿でもガーゼと三角巾では吸水性が違うんです。
    繊維は数十種類から選んでいます」

  • 山崎

    完成までには、何年かかったんですか?

  • 折原

    「製品自体は1年半。主要な機能は1年くらいで出来ました。
    ただし、デザインをして工場で作ってもらうまでは長い道のりでした」

  • 山崎

    ツテもない中で、どうやって工場を探したんですか?

  • 折原

    「自分の足で、半年間かけて関東中の工場を周りました。
    プラスチックの成型をしている会社を片っ端から探して電話し、
    3Dプリンターで作った試作品を持参して、工場に直談判です。
    最初は、お取引もないですしベンチャー企業ですから門前払いもしょっちゅう。
    打ち合わせをしても、もの作りの経験がありませんから先方が何を言っているのかが分からない。
    知っているように振る舞って、打ち合わせの後に調べて…ということの繰り返しでしたね」

  • 山崎

    ターニグポイントは?

  • 折原

    「プラスチック成型の協会から工場のリストを入手して、工場を回り始めました。
    その日は、傘を持っていなくてずぶ濡れで工場へ着いたんです。
    不憫に思ってくれたのか、たまたま植物が大好きな担当者が話を聞いてくださった。
    聞けば、大手メーカーの下請けをやっている工場でとても技術力があり、
    サスティーの難しい成型もできそうだと分かりました。
    その方が社長に掛け合ってくださり交渉することに。
    70すぎの社長は、チャレンジ精神のある方で
    『50年間ボールペンを作ってきたが、筆記具以外にも技術力を活かしていきたい。
    新しいことに挑戦していくのは面白い』と生産を快く引き受けてくださったんです」

  • 山崎

    それは凄い。ものづくりに魂をかける職人さんたちの技術力があってこそ、
    なんですね。

  • 折原

    「本当にそうですね。例えば、ボールペンのキャップの部分って、ミクロン単位で調整されています。このパチッとした絶妙な感触は、日本ならでは。日本製のペンが世界で高く評価されているのは職人技術のおかげ。
    サスティーも例外ではなく、原材料から加工、組立てまで国内の十数社さんの協力によってできています」

  • 山崎

    できるまでで大変だったことは?

  • 折原

    「開発面では、中の芯材の防腐処理ですね。
    吸水性の高い素材が見つかったものの、土には、約200万種類の菌がいると言われています。なので、防腐処理をしないといけません。
    しかし、防腐材会社には2千種類のデータしかなく、
    ラボで加速試験をしてみると2週間くらいで菌に分解されてしまうケースもありました。理論上は良くても、試験では全く違うデータが出ることも多い。なので、防腐剤を0.1%単位で変えていき、実際に土の中に入れて変化を見ました。周りから見ると一体何をやっているのか?という状況だったと思いますね。
    できた時は、ものすごく嬉しくて。
    まるで自分の子どもみたいに『ようやくできた!』という気持ちでした」

  • 山崎

    晴れてできあがり、お客さんの反応はいかがでしたか?

  • 折原

    「実際にサスティーを販売したのは、世界らん展です。しかし、業者さんからは予想外の反応でした。『売れないよ。お客さんは水分計なんか使わない』と。また、他の業者さんからは『お客さんが枯らさないと鉢が売れないから、こういうのが出たら困る』という声もあがり、相当な逆風でしたね。
    ですが実際には好調な売れ行きで手応えを感じました。こういうプロダクトをお客さんも求めていたのではないかと思います。
    今でも楽しみなのは、レビューです。『植物が枯れなくなった』とか、『こういうものを探していた!』という声を聞く度に喜びを感じます」

EPISODE 03 レッドドット賞を受賞。
世界に向けて、植物を育てる
楽しさを発信していく

2014年4月
Resdot Design Award 2014(ドイツ:世界3大デザイン賞)
2014年11月
Design for Asia Award 2014 Bronze Award(香港)
2015年1月
第16回JIDA デザインミュージアムセレクション(日本)
2015年9月
Good design award(日本)
  • 山崎

    レッドドット賞を受賞されていますよね。
    プロダクトデザインの中でトップレベルを証明するものだと思います。

  • 折原

    「ありがとうございます。
    レッドドットは、30人弱の審査員が、経済性、機能性、環境性、
    社会的価値といった9項目で採点します。
    園芸分野で受賞できることは、稀なようです。
    また、ベンチャー企業の実績も少ないと聞いています」

  • 山崎

    今後は海外マーケットで戦っていく?

  • 折原

    「そうですね。ようやく量産体勢が整ってきたので。
    海外からの引き合いも多く、量産もこの1、2年かけて工場と設備開発や投資をしてきました。
    鉢物の流通量は、日本では約2億鉢前後、ヨーロッパでは40億鉢前後と言われ世界で見ると巨大な市場です。
    車の燃料計のように、水分計がついているのが当たり前の世界を目指しています」

  • 山崎

    折原さんの夢は?

  • 折原

    「キャビノチェは100年前も100年後も必要とされるものやサービスを提供することを掲げています。
    今の社会は物が溢れていて、情報の伝達も消費スピードも早いです。
    でも、親が子に注ぐ愛情や、飼い主がペットに注ぐ愛情と同じで、
    植物を枯らしたくないという感情も100年前から変わらずあり100年後もあるものだと思います。
    そうした人の感情に寄り添う製品、サービスを作っていきたいです。
    今後は、観葉植物だけではなく農産物にも同じようにアプローチしていきます」

  • 山崎

    サスティーを、どのような人たちに届けていきますか?

  • 折原

    「気付かないうちに水やりに失敗している人たちに届けたいです。
    きっと、愛情の裏返しで水や肥料を与えすぎて、失敗してしまっている方も多いのではないでしょうか。
    水分計のマーケットは未だ形成されていませんが、最終的には僕が知らない場所に行った時に、
    鉢に水分計が刺さっているのがゴールですね」

  • 山崎

    ありがとうございます。
    最後にメッセージをお願いします。

  • 折原

    「植物との時間は、日々のストレスや悩みを癒してくれる、他では得がたいもの。
    自分で育てる楽しさを、サスティーを通して気付いていただけたら嬉しいです」

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